近年、ASEAN諸国における化学品管理制度の整備が進む中、ベトナムはGHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)の導入と運用において、特に注目される国の一つである。この記事では、ベトナムのGHS制度の法的枠組み、分類・表示・SDSの実務ポイントを紹介する。

GHS制度の導入と適用時期

ベトナムでは、以下の政令と通達を通じてGHSの導入が正式に進められている。

  • 政令第113/2017/ND-CP号
    化学品の分類および安全データシート(SDS)の作成義務を規定。

  • 通達第32/2017/TT-BCT号
    分類、ラベル、SDS作成に関する詳細な技術ガイダンスを提示。

  • 政令第43/2017/ND-CP号(改正政令111/2011/ND-CP)
    一般製品のラベル表示に関する基本的な規定を整備。

GHSの適用開始日は以下の通りである。

  • 物質:2014年3月30日以降

  • 混合物:2016年3月30日以降

これらの規制により、GHS Rev.2(2007年版)以降の構成要素がベトナム国内における化学品管理の基盤として運用されている。

化学品の分類

政令113号は、化学物質の分類において、国連GHS Rev.2以降の規則と技術ガイダンスに従うことを求めている。分類に関する詳細な基準と方法論は、通達32号の付録7に記載されており、各企業はそれに基づいて製品の危険性評価を行う必要がある。

ラベル表示の要件

ベトナムのGHSラベルには、以下の要素が求められる。

  • 言語:原則としてベトナム語を使用。一部に限り英語併記も可能。

  • 表示項目:化学名(IUPAC名等)、危険ピクトグラム、信号語(「危険」または「警告」)、危険有害性情報、注意喚起語、構成・含有量、使用方法、責任者情報、製造日、有効期限など。

  • ラベルサイズと位置:サイズに明確な規定はないが、政令43/2017/ND-CPに準じた貼付位置が求められる。

ラベルにすべての情報を記載できない場合は、最小限の情報(化学品名・責任者・原産国など)のみを表示し、その他は「SDSまたは添付文書を参照」と明記する必要がある。

安全データシート(SDS)の要件

ベトナムにおいて、危険有害性を持つ化学品の製造・輸入を行う企業は、UN GHS Rev.2に準拠したSDSの作成が義務付けられている

SDS作成の主なポイント:

  • 構成:UN GHS準拠の16セクションを含むこと(供給者情報、危険性、成分情報、応急処置など)

  • 分類閾値(カットオフ値):混合物中の危険成分が以下の値を超える場合は、SDSに記載が必要

危険性区分カットオフ値
急性毒性、皮膚腐食性、眼損傷等 ≥ 1.0%
発がん性、生殖毒性、変異原性(Cat.1) ≥ 0.1%
吸引毒性、STOT、感作性など ≥ 1.0%
  • 更新義務:情報の変更が生じた場合、SDSは速やかに更新されるべきである。

詳細な作成手順については、通達32/2017/TT-BCT号の付録9に基づく必要がある。